2004サマー 没ネタ復活祭2(お盆企画)
夏の光だ。眩しくて満足に目を開けることも、立ち止まることも適わない。
降り注ぐ光と大理石からの照り返しで何もかもが白く見える。
私は走っているのだろう、見えないが、外の匂いが鼻先から後ろに飛んでいく。足元から直に伝わる地面が熱い。
眇めた。それでも眩しい。金色が見えた。 自由に跳ねて回るミロの髪がさんざめく。夏の光に負けじと輝く。溶け込んで形を変えている。
靴! と、叫んだ。それだけで精一杯だった。
要らねー、と、愉快そうにミロが笑う。私の腕を引いて走る。そのまま自分の履物を放り脱いだ。
私は目を閉じた。それでも瞼の裏が焼けるように眩しい。
そんなものは、とミロが笑いながら言う。後で洗えば良いよ、と言ったか言わないかで、突然進行方向を変えた。
引っ張られている私も振り回されるように角を曲がる。宮の裏道を走っている。 石畳が続く裏道は時折影が出来ていて、それほど足の裏も熱くはない。
眇めた目に光と共に飛び込んでくるのは悉く生を主張する有機の営みだ。
白い通りと、跳ねるミロの髪、少年の頃から変わらない健康な腱と裸足、 路肩に伸びる名も判らぬ草の緑、小さな白い花、 皆、確かめる間もなく一直線になって、やたら眩しい白と混ざり合って、過ぎる。瞬きをする暇も無い。 濁りも歪みもない空の青さだけがスクリーンの様に眼前に広がっている。
蝉の鳴き声が耳に付いた。命の限り歌うを止めぬ、迸るような声だ。 こんなに大きな音を聞いたのは久し振りだ。
夏が来てから、私は、私の声と、ミロの声と、幾らかの生活音しか聞いていない。 蝉の声も遠く耳に入ってはいても、聞いていない。
息が上がってきたのに気が付いた。走っている。暫く走ってなんていなかった。
乱れ始めた呼吸は私の肩から右腕を伝って、ミロまで届いている。 ミロが振り返った。眩しくて見えない。只、恐らく笑っている。私の手首を掴む手に、ゆっくりと、少しだけ力が加わる。




前後があったのですが割愛。
前フリに問題があってお蔵入りしていた。カミュが半端なかった。






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